医療・介護経営コラム詳細
Medical & Nursing Care Manegement
美容医療機器は「良い機械」だけで選んではいけない
美容医療の新しい施術を導入しようとすると、どの機械が最も効果が高いのか、どのメーカーの評判が良いのかに目が向きがちです。もちろん、施術効果や安全性は医療機器を選ぶうえで欠かせません。
しかし、実際にクリニックを経営する立場では、機械そのものの性能だけで導入を決めることはできません。
どれほど評価の高い機械であっても、地域の患者層に合わない、施術価格を高く設定しなければ採算が取れない、スタッフが十分に使いこなせないといった状況では、導入後に思うような成果を得られない可能性があります。
美容医療機器を選ぶ際に重要なのは、「良い機械か」だけではなく、「自院で継続的に運用できる機械か」という視点です。
今回は、美容医療機器を導入する際に、経営面から確認しておきたいポイントについて考えます。
導入価格だけで判断してはいけない
美容医療機器の導入では、最初に本体価格へ目が向きます。数百万円の機械もあれば、1,000万円を超える機械もあり、導入価格は意思決定に大きく影響します。
ただし、実際に必要となる費用は、本体価格だけではありません。
機械によっては、消耗品やチップ、定期的な部品交換、保守契約、点検費用などが必要になります。故障した際の修理費や代替機の有無も、長期的な運用を考えるうえでは重要です。
導入価格が比較的安くても、施術ごとに高額な消耗品が必要であれば、患者一人あたりの利益は小さくなります。反対に、導入価格が高くても、ランニングコストが低く、長期間安定して使用できる機械であれば、結果的に収益を確保しやすい場合もあります。
そのため、本体価格ではなく、導入後に必要となる費用を含めた総コストで比較する必要があります。
何件の施術で投資を回収できるのか
美容医療機器を導入する際には、投資額を何件の施術で回収できるのかを事前に試算しておく必要があります。
例えば、機械の導入に1,000万円かかり、施術一件あたりに残る利益が2万円であれば、単純計算では500件の施術が必要です。ただし、実際には広告費、人件費、保守費用、消耗品費、値引きやキャンペーンなども考慮しなければなりません。
また、月に何件の予約を確保できるのかという視点も必要です。毎月50件の施術が見込める機械と、毎月数件しか見込めない機械では、同じ導入価格でも回収までの期間が大きく異なります。 導入前には、少なくとも次の点を確認しておきたいところです。
・想定する施術価格
・一件あたりの消耗品費
・一件あたりの施術時間
・月間の想定患者数
・担当するスタッフの人件費
・保守費用や広告費
・投資を回収するまでの期間
「人気の機械だから患者が来るだろう」と考えるのではなく、現実的に何件の予約を獲得できるのかを慎重に考える必要があります。
地域の患者層と価格帯に合っているか
都市部で人気の施術が、そのまま地方のクリニックでも成立するとは限りません。
美容医療は自由診療であるため、患者が支払える価格や美容医療に対する関心には地域差があります。高額な機械を導入した結果、採算を取るために施術価格を高く設定せざるを得ず、地域の患者層に選ばれないことも考えられます。
反対に、都市部と同じ高価格帯を目指すのではなく、地域の患者が継続して通いやすい価格に設定することで、安定した稼働につながる場合もあります。
特に美容医療では、一度だけ高額な施術を受けてもらうより、複数回の施術や定期的なメンテナンスにつながる方が、患者にとってもクリニックにとっても継続しやすくなります。
そのため、機械を選ぶ際は、自院の患者層が無理なく継続できる価格で提供しても採算が取れるかを確認することが重要です。
既存の施術と組み合わせられるか
新しい機械を導入するときは、その施術だけで完結させるのではなく、現在提供している施術とどのように組み合わせられるかを考えることも大切です。
既存の患者に案内しやすい施術であれば、新規患者だけに頼らず、導入直後から一定の需要を見込めます。また、複数の施術を組み合わせることで、患者の悩みに合わせた提案もしやすくなります。
例えば、肌質改善を目的とした既存施術を受けている患者に対し、たるみや引き締めを目的とする施術を組み合わせられるのであれば、メニュー全体の幅が広がります。
一方で、現在提供している施術と効果や対象が大きく重なっている場合には、新しい機械が既存メニューの患者を奪うだけになる可能性もあります。
新しい売上を生み出すのか、それとも既存の施術を置き換えるだけなのかという点も、導入前に確認しておきたいところです。
デモでは効果だけでなく運用まで確認する
美容医療機器を検討する際には、実際にデモを受けて、施術効果や痛み、操作性を確認することが一般的です。
しかし、デモで仕上がりが良かったという理由だけで導入を決めるのは危険です。デモではメーカーや販売会社の担当者が操作を支援してくれるため、実際の院内運用よりもスムーズに進むことがあります。
導入を判断する際には、施術時間、準備や片付けにかかる時間、患者の入れ替え、消耗品の管理、スタッフ教育なども確認する必要があります。
また、メーカー側が提示する症例写真や収益シミュレーションだけでなく、自院の患者数や価格設定に置き換えて考えることも大切です。
デモは「効果を見る場」であると同時に、「自院で実際に運用できるかを確認する場」として活用する必要があります。
デモでは効果だけでなく運用まで確認する
美容医療機器を検討していると、それぞれのメーカーから機械の特徴や施術効果、導入後に期待できる売上などについて説明を受けます。説明を聞いていると、どの機械も魅力的に感じますが、実際にはすべてを導入できるわけではありません。
経営する立場としては、機械の性能だけでなく、患者にどのような価格で提供できるのか、現在のスタッフでどの程度稼働させられるのか、既存施術との相性はどうかまで考える必要があります。
実際に複数の美容医療機器を比較していると、施術効果だけを見れば、魅力的に感じる機械は数多くあります。しかし、当院で導入するとなると、地域の患者様に受け入れられる価格で提供できるのか、看護師を中心に安定して施術を行えるのか、現在提供しているメニューと組み合わせられるのかまで考えなければなりません。良い機械を導入することと、その機械を経営として成功させることは、別の問題です。
実際の価格で考えると、東京などの都市部では1回10万円以上で提供されている施術でも、地域によっては、その半額以下まで価格を下げなければ患者様に選んでもらえないことがあります。美容にかける金額に対する考え方や、都市部との所得・給与水準の違いなど、その理由はさまざまです。
どれほど施術効果が高く、都市部で人気のある機械であっても、その地域の患者層や価格帯に合っていなければ、導入後にほとんど予約が入らないこともあります。だからこそ、都市部での相場や成功事例をそのまま当てはめるのではなく、自院の地域でどのような価格と運用方法なら成立するのかを検討することが重要だと感じています。
機械を導入した後に育てていけるか
美容医療機器は、導入すれば自動的に患者が集まるものではありません。
ホームページへの掲載、院内での案内、既存患者への説明、スタッフの知識共有、症例の蓄積など、導入後も継続的な取り組みが必要です。
また、導入直後から大きな売上を求めすぎると、過度な値引きや無理な営業につながる可能性があります。患者の反応を見ながらメニューや価格を調整し、スタッフの経験を積み重ねていく期間も必要です。
機械を選ぶ際には、導入時の話題性だけでなく、数年後も継続して使用し、施術として育てていけるかを考える必要があります。
美容医療機器の導入は、機械を購入して終わりではなく、そこから運用を始める事業投資です。
まとめ
美容医療機器を選ぶ際には、施術効果や機械の性能を確認することはもちろん重要です。しかし、それだけで導入を決めると、購入後に十分な稼働を確保できず、投資を回収できない可能性があります。
導入価格だけでなく、消耗品や保守を含めた総コスト、必要な施術件数、地域に合った価格設定、施術を担当するスタッフ、既存メニューとの相性などを総合的に考える必要があります。
また、メーカーが示す収益モデルをそのまま受け入れるのではなく、自院の患者数や人員体制、診療方針に置き換えて検討することが重要です。
美容医療機器を選ぶうえで本当に必要なのは、「最も良い機械」を探すことではなく、「自院で最も活かせる機械」を見極めることではないでしょうか。
記事監修
医療法人フォーチュン 理事
中川 弘基
医療法人および介護事業の経営に携わり、経理、人事・労務、採用、組織運営、美容医療、事業運営などを担当しています。 本コラムでは、医療・介護経営の現場で実際に経験したことや、専門家へ相談しながら判断した内容をもとに、経営者、管理職、開業を検討されている医師の方々に向けて情報を発信しています。
※本記事は、一般的な情報提供を目的として作成しています。掲載内容については正確性の確保に努めていますが、法令・制度の改正や個別の事情により、実際の取扱いが異なる場合があります。具体的な案件については、社会保険労務士、税理士、弁護士その他の専門家へご相談ください。