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「恋人の家から出勤中に事故――それでも通勤災害になる?」

職員から「出勤途中に交通事故に遭いました」と連絡があり、事故が起きた場所を確認したところ、会社へ届け出ている自宅からの通勤経路とはまったく違う場所でした。詳しく聞いてみると、前日は恋人の家に泊まり、そこから出勤している途中に事故に遭ったとのことでした。
このような場合でも、通勤中の事故として労災保険の対象になるのでしょうか。
一般的には、自宅と勤務先との間で起きた事故が通勤災害になると考えられています。しかし、労災保険における「住居」は、必ずしも会社へ届け出ている住所や住民票上の住所だけに限られません。
今回は、恋人の家から出勤していた職員が事故に遭ったケースを例に、通勤災害における「住居」の考え方と、会社が確認しておきたいポイントについて考えます。

通勤中の事故も労災保険の対象になる

労災保険は、勤務時間中や職場内で起きた事故だけを対象とする制度ではありません。職員が仕事のために住居と勤務先との間を移動している途中で事故に遭った場合は、「通勤災害」として労災保険の対象になる可能性があります。
労災保険上の通勤とは、就業に関して、住居と就業場所との間などを合理的な経路および方法で移動することをいいます。つまり、単に勤務先へ向かっていたというだけではなく、どこを出発したのか、その場所が本人の「住居」といえるのか、どのような経路や方法で移動していたのかが判断のポイントになります。
今回のように恋人の家から出勤した場合には、まず、その恋人の家が労災保険上の「住居」といえるのかを考える必要があります。

労災保険上の「住居」とは

労災保険上の住居とは、職員が日常生活に使用し、就業するための拠点としている場所をいいます。会社へ申告している住所だけでなく、実際の生活状況を踏まえて判断されます。
例えば、家族が住んでいる自宅とは別に、勤務先の近くにアパートを借り、普段からそのアパートから出勤している場合には、そのアパートも住居として認められます。
また、自宅が倒壊したため友人宅に一時的に住み、そこから勤務先へ向かう途中でけがをしたケースについて、友人宅が「住居」と認められ、通勤災害の対象となる場合もあります。
このように、「住民票がある場所か」「会社へ届け出ている場所か」だけで決まるわけではありません。実際にその場所で生活し、仕事へ向かうための拠点として使用していたかどうかが重要になります。

恋人の家は「住居」として認められるのか

恋人の家から出勤した場合、その家が必ず住居として認められるわけではありません。

例えば、休日に恋人の家へ遊びに行き、たまたま一晩泊まった翌朝に、そのまま勤務先へ向かったというだけであれば、恋人の家は本人の日常生活や就業の拠点とはいいにくいでしょう。この場合、恋人の家から勤務先までの移動が、労災保険上の通勤として認められない可能性があります。
一方で、恋人の家に反復・継続して寝泊まりしており、衣類や日用品を置いている、日常的にそこから出勤しているなど、実質的に生活の拠点の一つとなっている場合には、恋人の家も住居として認められる可能性があります。
ただし、「週に何日泊まっていれば住居になる」といった一律の基準があるわけではありません。宿泊の頻度や継続性だけでなく、本人の生活実態、荷物の保管状況、普段どこから出勤しているかなど、個別の事情を踏まえて判断されます。
そのため、「恋人の家から出勤したので労災にはならない」とも、「頻繁に泊まっているので必ず労災になる」とも一概にはいえません。

会社へ届け出ている住所と違っても労災になる?

会社としては、職員から届け出を受けている住所と実際の出発地点が異なると、「会社に届け出ていない場所なのだから、労災にはならないのではないか」と考えるかもしれません。
しかし、会社への住所や通勤経路の届出と、労災保険上の通勤に該当するかどうかは、必ずしも同じ基準で判断されるものではありません。
会社へ届け出ていない場所であっても、実際に本人の生活や就業の拠点となっていれば、労災保険上の住居と認められる可能性があります。一方で、会社へ住所として届け出ている場所であっても、実際にはそこから通勤していないのであれば、事故当日の生活実態を確認する必要があります。
ただし、労災保険の対象になるかという問題と、住所や通勤経路の変更を会社へ届け出ていなかったという問題は別です。労災保険上は通勤と認められたとしても、届出を怠っていたことについては、就業規則や通勤規程に基づく別の対応が必要になる場合があります。(通勤費を多くもらうためにわざと遠い実家を住所として登録するケースも考えられます。)

会社が確認しておきたいこと

職員から通勤途中の事故について連絡を受け、出発地点が会社へ届け出ている住所と違っていた場合には、会社だけで労災かどうかを決めつけず、まず事実関係を確認する必要があります。
確認しておきたいのは、事故が起きた日時や場所、どこから勤務先へ向かっていたのか、なぜその場所に宿泊していたのか、どの程度の頻度で宿泊しているのか、その場所に衣類や日用品を置いているのか、普段からそこを出勤の拠点としているのかといった点です。
また、事故が起きた場所までの移動経路が、恋人の家から勤務先へ向かううえで合理的な経路だったかどうかも確認します。合理的な経路は一つに限られず、通常利用される経路であれば、複数の経路が認められることがあります。一方で、特別な理由もなく著しく遠回りをしていた場合などは、合理的な経路と認められない可能性があります。
最終的に通勤災害に該当するかどうかを判断するのは、会社ではなく労働基準監督署です。会社は、本人から聞き取った内容や把握している事実を整理し、労災保険の請求手続きに協力する立場になります。

経営者として感じる難しさ

実際に経営する立場からすると、職員が普段どこから通勤しているのかを、会社が常に把握することは困難です。実家から通勤しているという届出が出ていても、普段の会話から、実際には勤務先の近くで生活しているのではないかと感じることもあります。
事故が発生した際には、職員のけがの状況や当日の勤務調整だけでなく、事故が起きた経路や出発地点での生活状況まで確認しなければなりません。プライベートな事情にも関わるため、会社としてどこまで確認すべきか判断に迷う場面もあると思います。
それでも、会社への届出と違うという理由だけで労災ではないと判断せず、まずは必要な範囲で事実関係を確認する姿勢が重要です。

住所や通勤経路を定期的に確認する

事故が起きた際の確認をスムーズにするためには、職員の住所や通勤経路、通勤方法に変更があった場合の届出ルールを、就業規則や通勤規程などで明確にしておくことも大切です。
住所変更の届出は、通勤災害の確認だけでなく、通勤手当、緊急連絡、税務や社会保険などにも関係します。引っ越しをした場合や、主な通勤経路・通勤方法が変わった場合には、速やかに会社へ届け出るよう周知しておく必要があります。
当院では、職員が自動車通勤に使用する車両の任意保険について、有効期限が切れていないかを確認するとともに、毎年、住所や通勤経路を改めて提出してもらうことにしています。
毎年確認していても、職員の生活状況をすべて把握できるわけではありません。しかし、定期的に届出内容を更新する機会を設けることで、住所や通勤方法の変更を届け出る意識を持ってもらうことができます。また、事故が起きた際に、会社が把握している届出内容と実際の状況を確認しやすくなります。
ただし、届出がなかったことだけを理由に、会社が労災保険の請求手続きへの協力を拒むことは適切ではありません。会社の規程上の問題と、労災保険上の通勤に該当するかという問題は、分けて考える必要があります。

まとめ

恋人の家から出勤する途中に起きた事故が、通勤災害として認められるかどうかは、その家が本人にとって労災保険上の「住居」といえるかによって変わります。
たまたま一晩泊まっただけであれば、本人の日常生活や就業の拠点とは認められにくいと考えられます。一方で、継続的に寝泊まりし、衣類や生活用品を置くなど、実質的な生活の拠点となっている場合には、住居として認められる可能性があります。
重要なのは、会社へ届け出ている住所と同じかどうかだけで判断しないことです。事故が起きた場合には、本人の生活実態や宿泊状況、事故当日の移動経路を確認し、最終的な判断は労働基準監督署に委ねる必要があります。
職員のプライベートな事情が関係するため、会社としても聞き取りが難しいケースですが、必要以上に私生活へ踏み込むのではなく、通勤災害の判断に必要な範囲で事実関係を確認することが大切です。
※通勤災害に該当するかどうかは、個別の事情によって判断されます。実際の事故について判断に迷う場合は、管轄の労働基準監督署や社会保険労務士などへご相談ください。

記事監修

医療法人フォーチュン 理事
中川 弘基

医療法人および介護事業の経営に携わり、経理、人事・労務、採用、組織運営、美容医療、事業運営などを担当しています。 本コラムでは、医療・介護経営の現場で実際に経験したことや、専門家へ相談しながら判断した内容をもとに、経営者、管理職、開業を検討されている医師の方々に向けて情報を発信しています。

※本記事は、一般的な情報提供を目的として作成しています。掲載内容については正確性の確保に努めていますが、法令・制度の改正や個別の事情により、実際の取扱いが異なる場合があります。具体的な案件については、社会保険労務士、税理士、弁護士その他の専門家へご相談ください。

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