お問い合わせ
Page
Top

医療・介護経営コラム詳細

Medical & Nursing Care Manegement

人材マネジメント / 医療経営

スタッフを増やせば患者数は増える?採用前に考えたい「診療のボトルネック」

クリニックを運営していると、「患者数を増やすためにスタッフを増やそう」と考える場面があります。特に、診察待ちが長い、リハビリの予約が取りにくい、スタッフから「人が足りない」という声が出ている場合は、採用を増やすことが最も分かりやすい解決策に見えます。
しかし、実際にはスタッフを増やしたからといって、必ず患者数や売上が増えるわけではありません。
採用の前に考えたいのが、「今の診療体制のどこがボトルネックになっているのか」ということです。

ボトルネックとは、全体の流れを止めている一番狭い部分のことです。
クリニックで考えると、受付、診察、検査、処置、リハビリ、会計など、患者様が来院してから帰宅するまでには複数の工程があります。
例えば、理学療法士を増やしても、診察できる患者数が限界に達していれば、リハビリ患者数は思うように増えません。反対に、医師には余裕があっても、リハビリの予約枠が常に埋まっているのであれば、理学療法士を増やすことで患者数を増やせる可能性があります。
つまり、採用すべき職種は「忙しそうなところ」ではなく、「全体の流れを止めているところ」から考える必要があります。

現場から「人が足りません」と言われたときも、その原因を分けて考えることが大切です。
本当に患者数に対して職員数が不足している場合もあれば、業務の偏りや役割分担の問題で忙しくなっている場合もあります。

例えば、資格がなくてもできる業務を専門職が行っている、特定の職員にだけ業務が集中している、予約の取り方が非効率になっているといった場合は、採用せずに改善できる可能性があります。
一人採用すれば、給与だけでなく社会保険料や採用費、教育にかかる時間も発生します。そのため、「人を増やす前に、今いる人が本来の業務に集中できているか」を一度確認しておく必要があります。

一方で、経営側が「まだ回せる」と考えていても、現場が慢性的な負担を感じている場合には注意が必要です。残業が増えている、休憩が十分に取れない、有給休暇を取りづらい、特定の職員へ負担が集中しているといった状況が続けば、スタッフの不満が蓄積します。
人件費を抑えることだけを優先した結果、既存スタッフが退職してしまえば、採用費や教育コストがさらに増え、かえって経営上の負担が大きくなることもあります。
そのため、人員配置を考える際には「患者数を増やせるか」だけではなく、現在のスタッフが無理なく働き続けられる体制になっているかも確認する必要があります。

採用を検討するときは、「一人増やせば楽になる」という感覚だけではなく、その採用によって何人の患者様を追加で受け入れられるのかを考えることも重要です。
例えば、理学療法士を一人採用することで新たにリハビリ枠を作れるのであれば、採用による増収をある程度試算できます。

一方で、スタッフを増やしても患者数を増やす余地がないのであれば、人件費だけが増えることになります。また、診療スペースやリハビリ設備、駐車場などがすでに限界に達していれば、人を増やしても診療できる患者数は増えません。
採用を「人手不足の解消」だけでなく、「どれだけ診療能力を増やせる投資なのか」という視点で考えることが、経営上は重要です。
ただし、すべての採用を直接的な増収だけで判断する必要はありません。既存スタッフの負担が限界に近く、退職リスクが高まっている場合には、売上を増やすためではなく、現在の診療体制を維持するための採用が必要になることもあります。

実際にクリニックを運営していると、現場から「人を増やしてほしい」という声が出ることがあります。ただ、経営側としては、一人採用すれば年間で大きな人件費が発生するため、単純に「忙しい」という理由だけで増員することもできません。
一方で、現場の負担を放置してスタッフが退職してしまえば、残った職員の負担がさらに増え、新たな採用や教育にも費用がかかります。患者数や売上だけでなく、現在の職員が長く働ける環境になっているかも含めて判断する必要があると感じています。

また、スタッフから人員を増やしてほしいという声が出たときには、「何が忙しいのか」「どの業務に最も時間を取られているのか」を具体的にヒアリングすることも大切だと考えています。
話を聞いてみると、人を増やすよりも、便利なソフトウェアを導入したり、業務の流れや現在の職場環境を見直したりすることで解決できる場合があります。

一口に「人を増やしてほしい」と言っても、その理由はさまざまです。だからこそ、最初から採用ありきで考えるのではなく、まずはスタッフの声に耳を傾け、負担の原因を把握することが必要だと思います。

ボトルネックが分かったからといって、必ず採用が必要になるわけではありません。
予約枠の見直し、スタッフ間の業務分担、受付業務の効率化、診療動線の変更、IT化など、採用以外にも改善できる方法はあります。
例えば、理学療法士が書類作成や電話対応など、本来ほかの職種でも対応できる業務に多くの時間を取られているのであれば、業務分担を見直すことでリハビリに使える時間を増やせる可能性があります。

また、同じ作業を何度も入力している、紙で行っている業務に時間がかかっているといった場合には、システムやソフトウェアの導入によって負担を減らせることもあります。
反対に、こうした業務改善を行っても予約を断る状態が続いている、あるいは職員一人あたりの負担が高い状態が続いているのであれば、そこで初めて増員を検討する意味が大きくなります。
採用するかどうかよりも先に、「なぜこれ以上患者を受け入れられないのか」「なぜ現場が忙しくなっているのか」を明確にすることが必要です。

私は、単純に忙しいという理由だけで採用するのではなく、その職員を一人増やすことで、どこまで診療体制を広げられるのかを見るようにしています。
ただし、数字上はまだ回せるとしても、現場の負担が大きくなりすぎれば退職につながる可能性があります。

患者数、売上、人件費だけではなく、スタッフの働きやすさや退職リスクまで含めて考えることが、結果的には安定した経営につながると思っています。
経営側から見た「まだ回せる」と、現場が感じる「もう限界」は必ずしも一致しません。
数字を見ることと同時に、スタッフの声を聞き、その両方を踏まえて採用を判断することが重要だと考えています。

クリニックの患者数を増やすために、スタッフの採用が必要になることはあります。
しかし、スタッフを増やすこと自体が目的になってしまうと、人件費だけが増えて診療能力はほとんど変わらないということも起こります。

一方で、人件費を抑えることを優先しすぎて現場の負担を放置すると、不満の蓄積や退職につながり、結果的にさらに大きな採用コストや人手不足を招く可能性があります。
大切なのは、受付、診察、検査、リハビリ、会計などの流れを見て、どこが患者数を制限しているのかを把握すると同時に、現在のスタッフが無理なく働けているかを見ることです。
「誰を採用するか」を考える前に、「今、どこがボトルネックなのか」を考える。
そして、診療能力とスタッフの負担の両方を見ながら採用を判断することが、安定したクリニック経営につながると思います。

記事監修

医療法人フォーチュン 理事
中川 弘基

医療法人および介護事業の経営に携わり、経理、人事・労務、採用、組織運営、美容医療、事業運営などを担当しています。 本コラムでは、医療・介護経営の現場で実際に経験したことや、専門家へ相談しながら判断した内容をもとに、経営者、管理職、開業を検討されている医師の方々に向けて情報を発信しています。

※本記事は、一般的な情報提供を目的として作成しています。掲載内容については正確性の確保に努めていますが、法令・制度の改正や個別の事情により、実際の取扱いが異なる場合があります。具体的な案件については、社会保険労務士、税理士、弁護士その他の専門家へご相談ください。

Translate »